19世紀写真展覧会とコンデ美術館のサロン展示を目当てに、Chantilly城へ。
前者については、城の一室に20点ほどのこじんまりとした展示であったが、Gustave le Grayの海写真やBraunのアルプス写真、Bisson兄弟やRoger Fentonのクリミア戦争報道などなど、19世紀写真のハイライトをみることができた。思わぬところで、一点だけAppertのフォトモンタージュにも遭遇する。しかし、この蒼々たるメンバーのなかで、アペールのものは一番下手くそなフォトモンタージュであった。ル・グレイのダブルネガやBraunによるプリント、これ見よがしな人物配置など、細緻で丁寧な仕事が、硬質で細かなプリントによって際立てられており、また無名作家によるパノラマ写真のズレと歪みを無くそうとする努力も並々ならない。いずれにせよ、これら強烈な「演出」を施す19世紀(風景)写真の一覧において、技術としても描写としても鍵となるのは、「空」の撮影であるように思われる。記念碑的建物写真の空の「なさ」や、パノラマ写真の空の飛び具合、ブラウンによるアルプスの稜線と空との臨界、グレイの海以上に渦巻く空、などなど。
その後は各部屋で、壁一面のHenri d'Orleanによる絵画コレクションの展示。この展示方法には、やはり圧倒される、というか、毎度部屋の中心に立ち(座り)、首を上下して、口をあけて見るという文字通り圧倒されるような身体経験が強いられる。富と権力の顕示、というだけでなく、おそらく並べ方にも少なからず意図があると思われるが、そこまでは読み取れず。妻と子に先立たれてこの城で美術品収集に耽ったという城主は、19世紀後半に印象派にも興味をもつもののそれらを一切展示することはなかったといい、ここでは15・16世紀のイタリア絵画と19世紀フランスの近代絵画を混ぜ込んだような展示が施されている。ラファエロの三美神、プッサンの暗い色調、アングルの理想的身体、などなどを一挙に拝む。肖像画の部屋のみグリッド状の展示だったのも興味深い。

城自体はこじんまりとしており、見学時間としてもちょうどよく、街の雰囲気もよかった。不思議だったのは、決して正面をみせないような城の配置であり、それを暗示するかのように入口と対面して、そこから伸びる道に背を向ける騎馬像。すべての建物を斜めにずらして配置することで、入口から建物、その内部まで左回りに渦を書くような動線を描いている。あとは晴天のもと、一面の銀世界と雪化粧の城に感化されて、競馬場を走った。
http://www.chateaudechantilly.com/chateauchantilly/fr/index.html