今日の授業に来ていた写真家、Jacquline Salmonの作品は他に比して興味深いものだった。
≪地理書記法géocalliographie≫と称されたシリーズは、写真イメージを従来の地理学・気象学の表記法と組み合わせることによって制作されている。18・19世紀の古地図を参照しつつ巨大写真を組み合わせて海から見た陸地の側面図(ポートレイト)を映し出したり、逆に、風景写真から陸地部分がぽっかりと白地で切り抜かれていたり、また、潮の満干や気圧などの気象図を写真と重ね合わせ、監視カメラの配置や土地の境界線のみを抜き出し、逆に人工分布図から土地の線を差し引く操作によって幾何学的な図形が浮かび上がる、といった具合である。

これらのイメージは、これまで当然のように記号・グラフによって可視化されてきた気圧や満干や境界線など、実のところ不可視なものの表象と、おなじく可視化の操作のための有力なツールである写真技術とを、歴史的かつ技術的な配置することによって不確定な線で成立している政治・科学の批判を果たすと同時に、さらには、それらイメージや図表そのものの普遍的な明証性をなし崩しにしてしまう。加えて、「色見本」と呼んでいた空写真の組み合わせや、土地が消え去る途端に前景化される空への関心は、フォトショップなどの新たな技術の効果的な利用として紹介されていたものの、グレイなどの19世紀写真の影響も色濃く感じさせるものでもあった。

作品を解説しながら天気予報図の前に立つ作者は、さながらお天気キャスターだった。図版は、以下のサイト。剥製写真も撮影しているよう。http://www.jacquelinesalmon.com